恋するプレジデント♡ ~お嬢さま社長のめくるめくオフィスLOVE~

恋するプレジデント♡ ~お嬢さま社長のめくるめくオフィスLOVE~

last updateDernière mise à jour : 2026-01-29
Par:  日暮ミミ♪Complété
Langue: Japanese
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一部上場企業の大手総合商社・城ケ崎商事の社長令嬢である佑香は将来父の後継者となるべく経営を学んだが、親のコネではなく実力で入社し、ごく普通のOLライフを送ってきた。二十五歳の六月までは――。 入社三年目の六月、佑香は株主総会の席で突然、父が社長を退いて会長になるため次期社長となるよう指名される。それは彼女にとって、青天の霹靂以外の何物でもなかった。 とはいえ、社長就任を引き受けた佑香は以前から恋心を抱いていた二年先輩の野島忍を秘書に迎え、社長業に奮闘するが、彼は父の天敵だった副社長の甥で……。 そのうえ、同期入社の平本歩にまで猛アプローチされて……!? 若き女性社長をめぐる、トライアングルラブ!

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Chapitre 1

プロローグ

 ――わたし・じょうさきゆうはいわゆる社長令嬢である。父は一部上場企業・城ケ崎商事の社長で、そう祖父そふが創業したこの会社の三代目社長にあたる。

 結婚前は図書館で司書として働いていた母とは恋愛結婚で、母は経営者一族である城ケ崎家に嫁いで来ることにも抵抗はなかったらしい。姑にあたる祖母が、母のことを好意的に受け入れてくれたからだそうだ。

 そして、わたしはそんな両親の二人姉妹の長女として生まれ、三歳下の妹がいる。

 男子の生まれなかった城ケ崎家において、後継ぎは当然長女であるわたしということになっている。もちろん、わたしもそのつもりで幼いころから父の後継者となるべく、〝帝王学〟ならぬ〝女帝学〟を身につけて育ってきた。英語・フランス語や中国語・韓国語などの多国語も習得したし、大学では経営学も学んだ。

 でも、まずはごく普通のOLライフを満喫したくて、縁故入社ではなく実力で入社試験を受け、内定を勝ち取った。

 会社では経営戦略室に所属し、他の先輩方や同期たちと一緒に仕事をして、社員食堂でランチをして、終業後は気心の知れた友人たちとお酒を飲みに行ったりカラオケを楽しんだり。そう過ごしていくうちに、友だちにも恵まれた。

 そして、好意を寄せる人もできた。それが恋なのかどうかは分からないけれど……。

 その人――じましのぶさんは父の第二秘書を務めている人で、わたしにも優しかった。ただ単に、わたしが社長令嬢だからだっただけだったかもしれないけれど……。

 そんなわたしの平凡なOL生活は、入社三年目の六月、突然ガラリと変わってしまうことになる。父が株主総会の日に放った予期せぬ一言のせいで――。

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プロローグ
 ――わたし・城ケ崎佑香はいわゆる社長令嬢である。父は一部上場企業・城ケ崎商事の社長で、曾祖父が創業したこの会社の三代目社長にあたる。 結婚前は図書館で司書として働いていた母とは恋愛結婚で、母は経営者一族である城ケ崎家に嫁いで来ることにも抵抗はなかったらしい。姑にあたる祖母が、母のことを好意的に受け入れてくれたからだそうだ。 そして、わたしはそんな両親の二人姉妹の長女として生まれ、三歳下の妹がいる。 男子の生まれなかった城ケ崎家において、後継ぎは当然長女であるわたしということになっている。もちろん、わたしもそのつもりで幼いころから父の後継者となるべく、〝帝王学〟ならぬ〝女帝学〟を身につけて育ってきた。英語・フランス語や中国語・韓国語などの多国語も習得したし、大学では経営学も学んだ。 でも、まずはごく普通のOLライフを満喫したくて、縁故入社ではなく実力で入社試験を受け、内定を勝ち取った。 会社では経営戦略室に所属し、他の先輩方や同期たちと一緒に仕事をして、社員食堂でランチをして、終業後は気心の知れた友人たちとお酒を飲みに行ったりカラオケを楽しんだり。そう過ごしていくうちに、友だちにも恵まれた。 そして、好意を寄せる人もできた。それが恋なのかどうかは分からないけれど……。 その人――野島忍さんは父の第二秘書を務めている人で、わたしにも優しかった。ただ単に、わたしが社長令嬢だからだっただけだったかもしれないけれど……。 そんなわたしの平凡なOL生活は、入社三年目の六月、突然ガラリと変わってしまうことになる。父が株主総会の日に放った予期せぬ一言のせいで――。
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青天の霹靂! わたしが社長!? PAGE1
『――佑香、明日はビシッとしたスーツで出勤しなさい』 昨夜、成城にある家のリビングで寛いでいたわたしは、なぜか父からそんなことを言われて戸惑った。『……えっ? うん、分かった』 城ケ崎商事の社員は服装が自由で、秘書室以外の部署では、どちらかといえば女性社員はオフィスカジュアルで勤務していることが多い。わたしも漏れなくそのうちの一人だったのだけれど。『お母さん、お父さんはなんで急にあんなこと言ったんだろうね?』 わたしは父もそれを容認していたはずなのにと首を傾げ、一緒にウィスキーで晩酌をしていた母に訊ねた。『明日は株主総会だからでしょう? 佑香、忘れたの?』『それはわたしだって憶えてるけど、いつもはそんなこと言われたことなかったんだよ?』 そもそも、わたしが父と一緒に株主総会に出席することすら珍しいのだ。次期社長候補とはいえ、あくまで一般社員の一人に過ぎないのだから。『そうねぇ……、どうしてかしらね?』『……? お母さん、何か知ってるの?』 母の言い方に何か含みがあるように聞こえたので、わたしは母に詰め寄ったけれど、母は結局何も語ってはくれなかった。 でも、母はきっと父の狙いを知っていたはずだ。だって、父があれだけベタ惚れしている母に隠しごとをするはずがないもの。   * * * * ――というわけで、今日はまだ色々と謎が残るものの、わたしは父に言われたとおりにスーツ姿で出勤した。それもシンプルなビジネススーツというわけではなく、ブラウスは淡いピンク色のちょっとドレッシーなものを選ぶように父から言われた。(お父さん、なんで今日に限ってわたしの服にあれこれ言ってくるんだろ……? もうワケ分かんない) 今は六月の下旬。そろそろ蒸し暑くなってきているというのに、長袖のスーツ姿なんてもう拷問としか思えない。 城ケ崎商事本社のエントランスをくぐり、首を傾げながらエレベーターホールに向かって歩いていると、出勤してきた友だち二人に出くわした。「おはよ、佑香! あれ、今日はスーツで出勤? 珍しいね」「うっす、佑香。今日はどうした? そんなめかしこんで」 先に声をかけてきたのは、わたしと同じ経営戦略室に所属いている田口萌絵。茶色がかった少しウェービーなボブカットの女の子で、サバサバした
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青天の霹靂! わたしが社長!? PAGE2
「株主総会にも出ろってことは……、もしかして社長、引退して佑香に社長職を譲るつもりなんじゃないかな」 いや、厳密にはそうハッキリと言われたわけではないのだけれど。わたしも何となくイヤな予感はしている。「……まさかぁ! いくら何でもそれはないでしょ、萌絵。引退なんて早すぎるし」「でも、お前がそう思ってるだけでさ、親父さんはマジでそのつもりかもしんねえぞ?」 萌絵の予想に、平本くんまで乗っかってきた。しかも、彼は何だか楽しそうなのはなぜだろう?「えー……、そんなぁ。わたしまだ、当分は普通のOLライフを満喫するつもりでいるのに」 彼の言葉が現実になりそうな気がして、わたしはげんなりした。別に社長になりたくないわけではないけれど、それはまだまだ先の話。少なくともあと数年、せめて二十代の間はごくごく平凡なOLライフを楽しんでいたいと思っていたのだ。「まあまあ佑香、そんなに落ち込まないで。あたしたち、あんたが社長になったとしても、ずーーっと友だちでいるからさ。ね、平本くん?」「ああ。だからさ、もし親父さんから『社長になれ』って言われたら、遠慮なんかしないで引き受けろよ? 何かあったら俺たちがいつでも相談に乗ってやるから」「…………うん、二人ともありがと」 わたしはあまり乗り気ではないけれど、引きつった笑みで二人の友人にお礼を言った。「それにしても、平本くんって佑香に優しいよねー。あんたもしかして、佑香のこと好きなわけ?」「…………え?」 萌絵がニヤニヤしながら平本くんをからかうので、わたしは唖然となった。(今のはわたしの聞き間違い?)「いやいや、まっさかぁ! そんなわけ――」「……はぁぁぁっ!? そんなんじゃねえよ! バカじゃねえのお前!」 彼も笑って否定すると思っていたら、否定は否定でも思いっきり顔を真っ赤にして、ムキになって萌絵に突っかかった。ここが会社のロビーで、他に大勢の社員の皆さんが通っていることも忘れて。「ちょっ、平本くん! バカ! 声が大きいよ!」「あ……、悪りい。コイツが変なこと言うから」「ごめんごめん! ちょっとからかっただけだって。そんなにムキになることないじゃん」 萌絵の言うとおりだ。本当に違うなら、あんなにムキになって否定する必要なんてないはず。ということはやっぱり、彼はわたしに気があるんだろうか……?
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青天の霹靂! わたしが社長!? PAGE3
 ――経営戦略室のオフィスに入ってすぐ、わたしのスマホに父から電話がかかってきた。「――はい」『佑香、父さんだ。今日十時からの株主総会に、お前も出席しなさい。迎えをよこすから』(やっぱり……) 萌絵の予想は見事に当たってしまった。そして父は、どうしてわたしも出席する必要があるのか、その理由を言わなかった。 わたしはまな板の上の鯉になった心境で、小さく息を吐きながら返事をした。「…………はい、分かりました」 父の言葉はもう命令に近いので、抵抗するだけ無駄だとわたし自身分かっている。とはいえ父は決してワンマンというわけでも、毒親というわけでもなく、わたしも父のことは好きだし尊敬もしているのだけれど。「仕方ない。覚悟決めて行くか……」 電話が切れた後、わたしはひとり盛大なため息をついた。幸い、まだ始業前なのでよかった。 ――九時に始業し、一時間ほどデスクのパソコンに向かって仕事をしてやれやれと肩を回してると、室長に声をかけられた。「城ケ崎さん、社長の秘書が君を迎えに来たよ」「あ……、はい。今行きます」 わたしは重い腰を上げ、席を立った。 父には秘書が二人いる。第一秘書は村井さんという女性で、わたしが密かに思いを寄せている二年先輩の野島さんは第二秘書だ。さて、どちらが迎えに来たんだろう?「――佑香お嬢さん、おはようございます。社長がお待ちですので、僕と一緒に大ホールへ参りましょう」「はい! 野島さん、おはようございます! 行きましょう!」 迎えに来たのが野島さんだったので、ダダ下がりだったわたしのテンションはたちまち爆上がりした。わたしもつくづく現金なものだ。 想い人と一緒に、わたしは上機嫌で株主総会が行われる二階の大ホールへと向かうのだった。   * * * * ――わたしは野島さんにステージへ上がるよう促され、午前十時、当初の予定どおりに株主総会は始まった。 まずはこの会社の筆頭株主でもあり、現社長である父のスピーチから始まったのだけれど。そこで事件は起こった。『株主の皆さま、今日はお集り下さり、本当にありがとうございます。実は本日、社長の私からこの場で重大発表がございます。――私は今月末日をもちまして、社長職を退くことに決めました。そして、後任の社長にはここにい
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青天の霹靂! わたしが社長!? PAGE4
 突然次期社長に指名され、わたしはわけが分からずに口をパクパクさせていた。『――では、先ほど次期社長に指名されました、弊社・経営戦略室所属の城ケ崎佑香より、みなさまにご挨拶させて頂きます』 そんなわたしの戸惑いなんてお構いなしに、総会は進行されていく。どうやら、司会を担当している広報課の男性もこの事実を父から前もって知らされていたらしい。知らなかったのはわたしだけということか。(えっ!? ちょっと待って! いきなり挨拶しろって言われても、一体何を話せっていうのよ)『それでは城ケ崎佑香さん、どうぞ』「佑香、よろしく」「さ、お嬢さん。どうぞ」(えー……、どうしよう?) 司会者、父、野島さんから矢継ぎ早にスピーチを求められ、わたしは困り果ててしまった。事前に知らされていたのならともかく、この場で突然「社長になってもらう」と言われたわたしには原稿なんて用意されているわけもなく、ここは出たとこ勝負で何か話すしかない。(ええい! もうこうなったらやるしかない!) わたしはツカツカと演台のマイクの前に立ち、大きく息を吸った。『えー、株主のみなさま、どうも初めまして。先ほど父から新社長に指名されました、城ケ崎佑香と申します。わたし自身、今は何が何だか分からなくて混乱している状態ですが、わたしはこれでも現社長・城ケ崎聡介の娘です。幼い頃から、いつかはこの会社の社長になるつもりではおりましたので、大学でも経営学を専攻し、経営に関する本も数多く読んで学んでおります。まだ二十五歳の若輩者で、至らぬところも多々あるとは思いますが、できるだけ父や株主のみなさまのご期待に応え、社長の職務を務めて参りたいと思っております。みなさま、どうぞよろしくお願い致します』(……何とか終わった。これでよかったのかな……?) スピーチを終えたわたしは、おずおずと顔を上げる。自分ではまずまずの出来だったと思うけれど、気になるのはこの場にいるみなさんの反応だ。さて、どうだろうか? ――と、まず一人の拍手の音が聞こえたかと思うと、その拍手はホール全体に響くほどの大きな波になって響いた。なんと、会場内の全員が拍手を送ってくれている……! 最初の拍手は多分父だろうけれど、野島さんだったらいいのにな……なんてこっそり思った。 そして、わたしの新
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青天の霹靂! わたしが社長!? PAGE5
「――佑香、ご苦労だったな。今日は驚かせてしまってすまなかった」「あ……、うん。お父さん、お疲れさま。別に謝らなくてもいいよ。驚きはしたし、突然すぎて理解が追いつかなかったけど」 総会が終了した後、父はわたしを労うとともに謝ってくれた。「そうか。それならいいんだ。母さんには話してあったんだがな、お前には怒られたくなくて黙っていたんだ。許してほしい。でも、お前が断らなくてよかった」「……そりゃあまぁ、お父さんがそこまで期待してくれてるなら、わたしもそれに応えたいしね。でも、引退した後、お父さんはどうするの?」「父さんは来月一日付で会長になる。お前の相談役も兼ねてな」「そっか、会長ね。じゃあ、もう経営の表舞台には出てこないってこと?」「まあ、そうなるかな。でも精一杯、お前のバックアップはさせてもらうよ。だから安心しなさい」「うん。お父さん、ありがと」 まだ素人みたいなものだし、わたしひとりでこの大きな会社を経営していくのは心許ない。父が色々とサポートしてくれるならわたしも安心だ。「――ところで、わたしの秘書は誰がやってくれるの? そのまま村井さんと野島さんが?」「ああ、そうなんだが……。第一秘書は野島君に、第二秘書を村井君にやってもらおうと思う」「えっ、野島さんが第一秘書? ホントに?」 わたしはそう聞いて、思わず耳を疑った。父は多分、わたしが彼に好意を抱いていることは知らないはずなのでただの偶然なのだろうけれど。わたしにとっては嬉しいサプライズ人事だ。「なんだ? 佑香、嬉しそうだな」「……えっ? そっ、そうかなぁ? そんなことないと思うけど」 はしゃいでいると、父が不思議そうに首を傾げた。(いけないいけない! 佑香、ここは会社! しかもお父さんの目の前なのよ) 心の中で自分をたしなめ、別の話題に切り替えることにした。「そういえば、どうして新社長にわたしを指名したの? 南井副社長もいるんだから、順当にいけば新社長はあの人なんじゃないの?」 南井和雄副社長は、現在この会社のナンバー2である。父がそんな人を差し置いて、どうして娘であるわたしを指名したのか、その理由をどうしても知りたかった。「う~ん、そうなんだがなぁ……。あの男は信用ならないか
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青天の霹靂! わたしが社長!? PAGE6
「――実はわたし、来月一日付で社長に就任することが決まったの」 三十六階建ての本社ビル、その二十二階にある社員食堂で、わたしはランチの冷製カルボナーラを食べる手を止めて友人二人に報告をした。「「やっぱり」」 とんかつ定食を食べていた平本くんと、からあげ定食を食べていた萌絵の返事は見事にハモり、わたしはそんな二人の反応が何となく面白くない。「何よ、二人して『やっぱり』って言うことないじゃない!」「いや、だってあたしの思ったとおりの展開になってるんだもん。ね、平本くん?」「うんうん。俺もそんなこっちゃねえかと思ってたんだよな」「…………何さ、萌絵も平本くんも他人事だと思って。この薄情ものーっ!」 二人とも納得しているようなのが余計に腹立たしくて、わたしは冷製パスタをやけ食いした。「っていうか平本くん、営業だよね? こんなゆっくり食べてていいの?」「いいんだよ。あのなあ佑香、外回りだけが営業じゃねえんだぞ? 日々パソコンに向かって、メールでやる営業もあるんだよ。俺はそっちの担当なわけ。社長になるんならそれくらい頭に入れとけよ?」「へぇー、今どきはそんな営業もあるんだね。知らなかった」 今までは一般のOLだったから、他の部署でどんな仕事のしかたをしているかなんて考えたこともなかった。でも、これからわたしはこの会社のいちばん上から全体を見渡す立場になるので、今の平本くんの言葉でひとつ勉強になった。「そういえば、平本くんってあたしのことは苗字呼びのくせに、佑香のことだけは名前で呼ぶよね。あれ、なんで?」 萌絵が今さらな疑問を口にした。……そうだ、彼は萌絵のことは確かに〝田口〟と呼んでいて、名前では呼んだことがない。「別にいいだろ、何だって。佑香とは大学から一緒だったし、城ケ崎ってなんか呼びにくいじゃん? 社長も城ケ崎だし」「あー、まぁそうだねぇ」 それは何となく分かる。社長令嬢であるわたしを苗字で呼ぶと、社長である父のことまで呼び捨てにしているような気持ちになるのだろう。「でね、お父さんは会長兼相談役になるんだって。あと、秘書もそのまま変わらないんだけど。第一秘書が野島さんで、第二秘書が村井さんになるらしいよ」 とわたしが二人に話しているところへ、偶然にもトレーを持った野島さんが通りかかった。「――佑香お嬢さん、先ほ
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社長就任とあの人の秘密 PAGE1
「――ただいまー」 今日、わたしは終業後、萌絵や平本くんとは飲みに行かず、まっすぐ家に帰ってきた。ちなみに他の社員と同じく電車通勤である。 社長になったら、父みたく我が家の専属ドライバーにクルマで送迎してもらうことになるんだろうか? ちなみにわたしの家――城ケ崎邸は五十年前に祖父が建てた洋風の大邸宅で、大きなカーポートが備え付けられている。家の間取りは二階建て、全部で7LDKの広さがある。もちろん一部屋ずつも十分な広さが確保されていて、各部屋にトイレや洗面台、バスルームにウォークインクローゼットまで完備されているのだ。「おかえりなさいませ、佑香お嬢さま。日和お嬢さまはもうお帰りでございますよ」「ありがとう、礼子さん。お母さんは?」 玄関で出迎えてくれた住み込み家政婦の瀬戸礼子さんにお礼を言ってから、母がどうしているか訊ねた。母は現在無職の有閑マダムというやつだけれど、色々と趣味を持っていたり、ボランティア活動に参加していたりして、わりと家にいないことが多いのだ。 ちなみに日和というのがわたしの三歳下の妹で、現在二十二歳。大学四年生で、ただいま就職活動の真っ只中だ。「奥さまは本日、手話サークルの活動に出ていらっしゃいます。もうじきお帰りになると思います」「そっか、ありがとう。お父さんは……ちょっと遅くなるかも」「かしこまりました」 礼子さんが家の中に入っていくと、わたしもパンプスからスリッパに履き替えて家に上がり、広々としたリビングへ入っていく。ソファーではすでに私服姿の日和が、何やらスマホをいじりながら寝転がっていた。 世間では〝お嬢さま〟と言われているわたしたち姉妹だけれど、実際自宅での様子はこんなものだ。世間一般の二十代女子と何ら変わらない。「――あ、お姉ちゃん。おかえりー。今日は早かったね」「ただいま、日和。……うん。今日はなんか疲れちゃって、飲みに行く元気もなかったの」 わたしは脱いだスーツのジャケットとバッグを妹の向かい側のソファーにドサッと置き、その隣りに腰を下ろした。「ああ、そういえばお姉ちゃん、来月から社長になるんだってね」「そうだけど、なんであんたが知ってるのよ?」「ついさっき、お父さんから電話があったんだよ。期待されてる長女は大変だねー。あたしはまだ
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社長就任とあの人の秘密 PAGE2
「――そういうあんたはどうなの? 就活、うまくいってる?」  わたしは話しながらもスマホから目を離さずにいる日和に訊ねた。さっきから何を真剣に見ているんだろう? 「まだ始まったばっかりだからね、何とも。今はひたすら企業の情報収集を頑張ってる感じ? 選択肢は多い方がいいしね」 「なるほど」  ウチの会社では聞いたことがないけれど、最近は入社してすぐに「こんなはずじゃなかった」と会社を辞めてしまう若者が多いらしい。そういう場合、会社と求職者とのマッチングがうまくいっていないことが多いと思う。入社試験を受ける前にその企業のことをちゃんと調べておくのは、理にかなっているのかもしれない。 「あ、でも城ケ崎は最初っから選択肢に入れてないからね。姉が社長の会社に入るとか、もはやギャグになっちゃうじゃん?」  「……まあ、確かにそうねぇ」  父親が社長というだけでも「コネで入社した」と言われてしまうのに、姉が社長というのはもっとイヤだろう。姉と比べられるプラス、「これだから世襲は」と何も知らずに無責任な嫌味を言ってくる社員だっているかもしれない。実際に、わたしも今日、一部の社員――多分、南井副社長の派閥に属している人たちだろう――からそんなことを言われた。 「それに、あたしもお姉ちゃんみたいに、自分の力で就職決めたいからさ。自分の働きたい会社は自分で決めるの」 「そっか……。まあ、日和に『ここだ!』って思える会社がきっと見つかるよ。わたしも姉として応援してるから、就活頑張ってね」 「うん。お姉ちゃん、ありがと。あたしは就活頑張るから、お姉ちゃんも社長の仕事頑張って!」&
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社長就任とあの人の秘密 PAGE3
 わたしはバッグとジャケットをつかんで二階の自室へ上がり、私服――シンプルなオフホワイトのトップスとピンクベージュのフレアースカート――に着替えた。 わたしたち姉妹は私服の好みも対照的だ。どちらかというとフェミニン系のコーデが好みであるわたしに対して、日和はボーイッシュなパンツスタイルが多い傾向にある。 着替えを終えてリビングに下りていくと、ちょうど母が帰ってきたところらしく、ミネラルウォーターを飲んでいた。「おかえりなさい、お母さん。外は蒸し暑かったでしょ?」「ただいま。暑かったわー。すぐ近くだから江藤に迎えに来てもらうのも申し訳なくて、歩いて帰ってきたの」「そっか。おつかれさま。江藤さんはお父さんを迎えに行ってもらわないといけないだろうしね」 江藤さんというのが、城ケ崎家の専属ドライバーである。もう六十歳近い男性で、この家には三十年以上仕えてくれている人だ。わたしの就職を見届けることなく三年前に他界した祖父の送迎もしてくれていた。 父は今日、会社の重役数名と一緒に飲んでくると言っていたので、タクシーで帰ってくることにでもならなければ江藤さんが迎えに行くことになるだろう。 ちなみに父は五十三歳、母は一歳下の五十二歳。二人とも二十五歳の長女がいるとは思えないくらい若々しいので、ますます父の引退はまだ早すぎるんじゃないかと思ってしまう。……まあ、決まってしまったものは仕方ないけれど。「今、礼子さんが夕食の支度をしてくれてるから、私はその前に着替えてくるわね」「うん」「はーい」 母が寝室へ行ってしまうと、わたしは日和に訊ねた。「……ねえ、お母さんってわたしが社長になるってこと、前もって知ってる感じだった?」「知ってるんじゃないの? お父さんから聞かされてるでしょ」「やっぱりそうか……。じゃあ、知らされてなかったのわたしだけ?」 当事者であるはずのわたしだけがスケープゴートにされたようで、何だか悔しい。他の人はみんな知っていたのに、わたしだけ今日まで何も知らされずにいたなんて。「いやいや、あたしも知らされてなかったから一緒じゃん。あたしだって、今日お父さんからの電話で初めて知らされたんだってば」「あ、そっか」 一応、日和もわたしのお仲間ということにはなるけれど、やっぱりなんか悔しい。納得がいかない!   * * 
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