Masuk一部上場企業の大手総合商社・城ケ崎商事の社長令嬢である佑香は将来父の後継者となるべく経営を学んだが、親のコネではなく実力で入社し、ごく普通のOLライフを送ってきた。二十五歳の六月までは――。 入社三年目の六月、佑香は株主総会の席で突然、父が社長を退いて会長になるため次期社長となるよう指名される。それは彼女にとって、青天の霹靂以外の何物でもなかった。 とはいえ、社長就任を引き受けた佑香は以前から恋心を抱いていた二年先輩の野島忍を秘書に迎え、社長業に奮闘するが、彼は父の天敵だった副社長の甥で……。 そのうえ、同期入社の平本歩にまで猛アプローチされて……!? 若き女性社長をめぐる、トライアングルラブ!
Lihat lebih banyak「佑香さんは何をお召しになってもステキですよね。お仕事の時のスーツ姿は凛々しくてカッコいいですし、私服は私服で可愛いですし」「やだなぁ、もう! 忍、褒めすぎよ」 わたしは大好きな彼にベタ褒めされて、ものすごく照れくさい。でも、今日は彼と本格的な初デートなので洋服選びもメイクも頑張ったのだ。好きな人には可愛く見られたいもの。「忍の私服姿もステキよ。ほら、先週はお店のお手伝い中でエプロンしてたから、ちゃんと見るのは今日が初めてだもん」 彼も多分、めいっぱいオシャレしてきたんだと思う。クレーのボタンダウンのカラーシャツ(多分半袖)に白のコットンパンツを合わせ、上からネイビーの薄手のジャケットを羽織っている。暑いからジャケットは要らないんじゃないの、とは思うけれど、それは多分わたしのと同じで冷房対策も兼ねてじゃないだろうか。「でも、もうちょっとカジュアルでもよかったかもね」「……ああ、そうですよねぇ。僕、デートなんて久しぶりのことなんで、何を着ればいいか悩んでしまって。それも、相手は社長ですし……、その、失礼があってはいけないかな……と思いまして」 デートは久しぶりと聞いて、この人にもやっぱり過去には恋人、もしくはデートをするくらいのお相手の女性がいたんだと改めて思い知らされる。 でも、わたしは彼の過去の恋愛になんて興味ないし、考えたくもない。今、彼がわたしを好きでいてくれているだけで十分なのだ。……そもそも、わたしにはそのことを彼に問い質す資格がないし。「デートに失礼も何も……。それに、今日は仕事抜きなんだから立場は対等よ。
――それから四日が過ぎ、南井さんの件に関してはまだ調査の結果待ちの状態が続いている。平本くんからもわたしに色々と情報は送られてくるけれど、どれも決め手としては弱く、反撃を開始するまではまだ時間がかかりそうだ。 そんな中で、今日は忍と約束していたブックカフェデートの当日である。「――行ってらっしゃい。お姉ちゃん、今日は野島さんとデートだっけ」 お昼前、わたしが着替えとメイクを済ませて出かけようとしていると、リビングで妹の日和に見送られることになった。両親もお昼から一緒に外出すると言っていたし(ウチの両親は今でも月に一回はこうしてデートをしているくらい仲がいいのだ)、今日は家政婦の礼子さんもお休みの日だ。 礼子さんやコックさんたちは住み込みといっても、もちろん労働者なので週に二日はお休みを取ってもらっている。そういう時には、食事の支度などは自分たちでしている。 食事は母が主に作っているけれど、わたしや日和もちゃんと料理はできる。もっとも、日和は簡単なものくらいしか作れないのだけれど……。「うん、行ってきます。帰りはあまり遅くならないと思う。日和、あんたは今日どうするの?」「あたしは今日、友だちと表参道まで行ってくる。今日は思いっきり遊ぶ日だから」「そっか。遊べる時に思いっきり遊んどかないとね。わたしもそうだったもん」 就活中の身とはいえ、まだ大学生なのだ。学生の時にできることを思う存分しておかないと、就活が本格的に始まってからでは遊ぶどころではなくなってしまう。わたしもそれは三年前に経験済みなので、彼女の気持ちは痛いほど身に沁みて分かる。「あ、ところで日和。ウチの会社にはいつごろ見学に来るの? 今、会社がちょっとバタついてて、あんたに構ってるヒマはないかもしれないんだけど」 南井さんの問題はまだ解決していないどころか、この先さらに悪化する恐れもあるのだ。そんな中で、日和に見学に来られても彼女をガッカリさせてしまうだけかもしれない。……まあ、入社するつもりのない彼女がショックを受けるかどうかは分からないけれど。「んー? 今月の後半くらいかなぁ。今は本命の会社とか見学して回ってるところで、それがまだ数社あるからその後になると思うよ」「……そっか、分かった。来るときはちゃんと連絡してね。わたしは忙しくて相手でき
「――とはいっても、いつまでも人任せってわけにはいかないよね。わたしにもできること、何かないかな……」 社食から社長室へ戻るエレベーターの中で(ちなみにわたしと忍だけは、重役フロアーに直通の高速エレベーターだ)、わたしは忍にポツリと言った。 今のところ、情報部からも平本くんからも情報待ち。三橋さんが書くと約束して下さった修正記事と謝罪文も、来週発売号まで待たなければならない(謝罪文だけなら、今週中でも可能かもしれないけれど)。待ち、そして待ち。待っているばかりなんてわたしには何だかもどかしい。「そうだ。調査部に、南井さんに関する調査も追加でお願いしようかな」「それはいいお考えだと僕も思いますが、また調査結果を待たされることになるんじゃないでしょうか」「…………それもそうか。でも仕方ないよ。お願いする以上、時間がかかるのは覚悟しなきゃ」 こちらは頼む側なのだから、調査を急がせるわけにはいかない。「でも、『可能な限り急いでほしい』とは伝えるつもり。野島さん、またお願いのメールを送ってもらっていい?」「分かりました。……それにしても、平本くんはまだ僕のことをよく思っていないんですね。さっきの剣幕、怖いくらいでした」 彼が食事中の出来事を思い出して、肩をすくめた。「怖いくらい」と言っているわりに何だか楽しそうなのは、彼氏としての余裕からなんだろうか……。「あれは嫉妬からね、多分。いつまでもわたしに固執してないで、新しい恋を見つけてほしいけど。だって、わたしも友だちとして彼の惨めな姿は見ていたくないもん」 それは、かつて彼を好きだった者としてでもあるかもしれない。過去に想いを寄せていた相手だからこそ、自分ができなかった分、彼を幸せにしてくれる相手を早く見つけてほしいのだ。&nbs
「……ああ、ごめん! っていうか待って、あたしちょっと話にまだついて行けてないんだけど。……えっと、『二重』ってついてるってことは、平本くんは今誰かのスパイになってるってことでいいの?」 この四人の中で唯一頭の中にクエスチョンマークを飛ばしているであろう萌絵が、今度は小声で話を整理しようとした。「ああ。実は俺、副社長に頼まれて……っつうか命令されて? 佑香のこと探るハメになってんだよ。まぁ、さっき佑香から騙されてることに気づかせてもらったんだけどさ。つまり、思いっきり利用されてたっつうワケ」「ああ~……。あんたお人好しだもんねぇ」「やかましいわ」 萌絵にからかわれた平本くんは、仏頂面で彼女に噛みつく。どうでもいいけれど、この二人ってけっこうお似合いなんじゃないだろうか。何というか、夫婦漫才みたいで。「……で、俺はそのことをさっき佑香に謝って許してもらったっていうか。むしろその立場も利用して二重スパイになってほしいって頼まれたんだよ。副社長サイドに都合の悪そうな情報をつかんだら教えてくれ、ってな。そうだったよな、佑香?」 彼はわたしに言質を取ろうとこちらを向いた。のはいいけれど、さっきから忍もいる前でわたしのことを平然と「佑香」と呼び捨てしているのはいいんだろうか? ……いや、わたしは別に構わないのだけれど、忍はそこらへん、どう思っているのか。平本くんも少しは「申し訳ない」と彼に対して思っていてくれたらいいのだけれど……。 でも、忍にも気を悪くしている様子はないので、それならわたしが気にする必要もないのかな?「うん。なんでわたしが彼にそんなことを頼んだかっていうとね……」 わたしは萌絵に、〈週刊イレブン〉に掲載されていたわたしを中傷する記事のことや、その記事を書いたのが南井さんの友人だという記者だったこと、その記事を南井さんが頼んで彼に書かせたこと、そして情報源が平本くんかもしれないと疑ってしまったことを話した。「…………なるほどねぇ。つまり、佑香は副社長にやられっぱなしじゃ悔しいから、反撃の機会を窺ってるわけだ? そのために平本くんも力になってくれるわけね」「そういうこと」「ということは……、社長と平本くんの関係は無事に修復できたんですね。よかったですね、社長」「おかげさまで、そういうことになります。心配か